尿失禁と排尿障害
●こどもの尿失禁や排尿障害とは?
正常な排尿周期には膀胱がリラックスして「尿をためる」段階と、スムーズに「尿を出す」段階があります。膀胱と膀胱出口はそれぞれしなやかな筋肉でできています。尿をためるときには膀胱は柔らかい風船のように伸びて、出口は尿が漏れないように閉じています。尿を出すときは膀胱がきれいに縮んで尿を出し切り、出口は完全に開きます。この一連の動作がうまくいかないと尿失禁や排尿障害がおこります。
尿失禁や排尿障害の原因は様々です。成長とともに改善する場合もおおいですが、尿路の形態異常や二分脊椎症などの先天性疾患が存在することもあります。重要なのは病態を見極めながら適切な治療を行うことです。
●こどもの尿失禁、排尿障害にはどのような症状がありますか?
昼間のおもらしが代表的な症状です。そのほかに、頻尿(1日8回以上)、稀尿(1日3回以下)、尿が途切れる、尿の勢いが弱い、排尿時におなかに力を入れている、尿の出始めに時間がかかるといった症状がみられる場合もあります。排尿障害があると膀胱炎などおしっこに細菌が混ざる尿路感染も起きやすいです。同じおもらしでも夜間のおねしょだけ(=単一症候性夜尿症)の場合は区別して考えます(夜尿症を参照)。
●尿失禁にはどのようなタイプがありますか?
尿失禁は常に漏れ続けている持続型尿失禁と尿が漏れていない時間がある間欠型尿失禁の2つのタイプがあります。持続型尿失禁を起こす代表的な病気は先天性の尿管異所開口で手術によって治すことができます。
●排尿障害にはどのようなタイプがありますか?
排尿障害には大きく二つのタイプがあります。しかし症状からタイプ分けすることは難しく、多くの場合は専門的な検査で判断します。
(1)排尿筋の収縮障害型:おしっこを出すときに膀胱の筋肉が十分に収縮しないため、尿勢が弱いタイプです。腹圧をかけて排尿すると、尿流は断続的になり残尿が生じます。
(2)排尿中断型:おしっこを途中で中断するタイプです。排尿途中で出口の筋肉(括約筋)が緊張するために尿が止まってしまいます。やはり排尿は断続的になり、残尿が生じます。
●排尿障害はどうやって診断するのですか?
(1)日常の排尿習慣、おもらしの状況についてご両親から詳しくお話を聞きます。ウンチの習慣も大事な情報です。まずは詳しい排尿日誌を3日連続してつけてもらいます。夜尿症の記録を1週間チェックしていただきます。
(2)尿検査;尿路感染、糖尿病、タンパク尿などをチェックします。
(3)身体検査;腹部、背中、外陰部をチェックします。
(4)エコー:腎臓と膀胱の形をみます。排尿障害では水腎症や膀胱の形態異常を伴っていることがあります。
(5)尿流測定:(ウロフロメトリー):排尿時の尿の出具合と残尿の有無をみます。測定装置が取り付けてあるトイレにおしっこをするだけで、おしっこがしたくなってから行います。排尿後にエコーで残尿を測定します。
(6)腹部レントゲン写真 脊椎の異常の有無、便秘の状況を診断します。
●どのように治療するのですか?
排尿障害のタイプによって治療方針は変わります。原因となる疾患が存在するときにはそれに対する適切な治療を行います。明らかな形態異常などが無く、機能的な尿失禁に対しては以下のような治療を考えます。
(1)十分な水分の摂取
水をたくさん飲めば尿量は多くなります。尿量が増えることで膀胱は発達し、尿路感染も予防されます。ただし膀胱を刺激するお茶・コーラなどのカフェイン飲料、ココアやチョコレート、柑橘系ジュース(オレンジ・レモンなど)、炭酸水の取りすぎは避けてください。
(2)決めた時間に排尿する訓練(時間排尿)
起きてから寝るまでの間に少なくとも6回は時間を決めてトイレに行く習慣が大切です(起床時、午前、昼、午後、夕方、就寝前を目安に2~3時間ごと)。トイレに行ったら尿を残さず全部出し切るように指導してください。尿が出し切れないお子さんは、トイレで急がずリラックスする訓練も大切です。
(3)2段排尿(反復排尿)
残尿があるお子さんでは、排尿し終わってからもう一度排尿を試みて残尿を減らすことも有効です。トイレにずっと入っていても尿が出ない場合は、一度トイレから出てもういちど入り直す方がよい場合があります。たとえば朝晩、歯みがきをする前に排尿して、歯みがきが終わった後でもう一度おしっこをするような習慣づけをこころみてください。
(4)便秘をなおす
毎日ウンチが出ることは排尿をよくする上でもとても大事です。排尿障害のお子さんでは便秘を伴う頻度が高く、ウンチが出てもころころした硬いウンチが少しだけという場合が少なくありません。程度によっては下剤も使いますが、基本は①十分な水分摂取、②食物繊維の多い食事、③運動です。食後にトイレへ行き、力まず長く座るようにします。
以上の(1)~(4)を指導した上で効果がない場合は、以下のような薬物治療などを考えます。
(1)抗コリン剤(ネオキシテープ・ポラキス・バップフォーなど)
尿をがまん出来ない切迫症状型の場合は膀胱をリラックスさせる薬を用います。この薬は膀胱の収縮を抑制します。膀胱がためられる尿量を増やすとともに、トイレに行く前のちびり症状をなくします。副作用としてはまれにめまい、のどの渇きを認めます。便秘や下痢などの消化器症状を起こすことがあります。
(2)交感神経抑制剤(エブランチル)
残尿があるお子さんでは膀胱の出口が緊張している場合があります。出口に分布している神経は交感神経といわれ、この神経を抑制することで排尿がスムーズになる場合があります。この薬は血圧を下げる効果もあり少量から使用します。